古賀春江《深海の情景》1933

古賀春江 (1895-1933)
《深海の情景》
1933(昭和8)年
油彩・キャンヴァス
129×161cm
大原美術館、倉敷


KOGA Harue
Scene in the Deep Sea
1933
Oil on canvas
129x161cm
Ohara Museum of Art, Kurashiki

Cf., 古川智次、『古賀春江 近代の美術 No.36』、至文堂、1976、第25図

中野嘉一、『古賀春江 芸術と病理』(パトグラフィ双書 11)、金剛出版、1977、pp.190-194

『大原美術館所蔵品展 近代日本洋画の名作』図録、福島県立美術館、滋賀県立近代美術館、三重県立美術館、そごう美術館、1986、p.30 / cat.no.25, p.119

 古賀春江は、その短い画歴の最後の4年間、コラージュ的構成による、超現実主義的な画風をとっている。
 この時期の作品に対して、皮相であるとの批判がしばしば寄せられる。しかしこれらの作品は、昭和初期のモダニスムのある相を、確実に映し出してもいる。
 『深海の情景』は彼の死の年に制作きれた。真っ暗な空間に、深海の生物、猫の頭の裸婦、帆船等が平坦な筆致で、バラバラに配されている。画面上端には、仄かな光が見える。下絵にあった水平線が完成作では廃され、そのため空間は、上も下もない浮遊するものと化している。
 古賀の作風の重みのなさは、画面の静けさと結びついて、独特の詩情を生み出している。
 彼はある画論で、「純粋の境地 -(中略)一切が無表情に居る真空の世界、発展もなければ重量もない、全然運動のない永遠に静寂の世界!」と記した。こうした理想の成就を、死の直前のこの作に見ることもできよう。古賀の良き友人であった川端康成は、ここに「幽玄で華麗な仏法の『深海』」を読みとった。

(県立美術館学芸員・石崎勝基)
『中日新聞』(三重版)、1986.8.10、「息づくロマン 大原美術館所蔵品展 4」

『大原美術館所蔵品展 近代日本洋画の名作』(1986/8/2~8/31)より
こちらを参照 [ < 三重県立美術館のサイト
 古賀春江の別の作品について;

常設展示1998年度【第2期展示】 1998年7月1日(水)~9月6日(日)「第1室:大正・昭和の洋画」 [ < 同上 ]

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