クリムト《水辺の館》1908ないし09

グスタフ・クリムト(1862-1918)
《水辺の館》 
1908ないし09年
油彩・キャンヴァス
110×110cm

プラハ国立美術館

Gustav Klimt
Water Castle
1908 or 1909
Oil on canvas
110×110cm
National Gallery in Prague

Cf., 『プラハ国立美術館秘蔵名画展・Ⅱ』、日本橋高島屋、栃木県立美術館、奈良県立美術館、北九州市立美術館、愛知県美術館、1982、cat.no.44

『プラハ国立美術館コレクション ヨーロッパ絵画の500年』、そごう美術館、ひろしま美術館、福岡市美術館、北海道立旭川美術館、三重県立美術館、1987、cat.no.61

 画面下部を水面が占めているので、眺めは文字どおり向こう岸として視る者から遠ざかる。しかし下端が水であってこちら岸ではないために、視点は宙に浮遊してしまう。水によって隔てられながらその距離は曖昧なまま、大地に支えられない風景は記憶がつむぐ幻と化すだろう。
 水が分かつ隔たり、かすかに斜めな岸の線、建物から森に至るひろがりなどが視線を誘い込もうとする。他方空の幅が切りつめられて眺めを手前に引きよせる。木々を描き出す輪郭を用いぬ点描は向こうにあるべき建物に喰い入るほど画布に即し、また黄緑の草原も奥に後退するよりは平坦に立ち上がると見える。
 このような奥行きと平面性を統一するのが、淡い色調そして、動きを殺すことでかえって描く営なみの時間を感じさせる筆致であろう - それは思い出固有のももろさを同時に孕んでもいるのだが。

(県立美術館学芸員・石崎勝基) 
『中日新聞』(三重総合)、1987.9.14、「プラハからの贈り物 ヨーロッパ絵画500年 15」

『ヨーロッパ絵画の500年 プラハ国立美術館コレクション』展(1987/8/29~10/4)より
こちらを参照 [ < 三重県立美術館サイト
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