ジョルジョーネ《風景の中の聖母子》

ジョルジョーネ(1476/78頃-1510)
《風景の中の聖母子》
油彩・キャンヴァス
44×36.5cm
エルミタージュ美術館、サンクト・ペテルブルク


Giorgione
Madonna with a Child in Landscape
Oil on canvas
44×36.5cm
The State Hermitage Museum, Saint Petersburg

Cf., Pietro Zampetti, Tout l'œuvre peint de Giorgione, (Les Classiques de l'Art), Flammarion, Paris, 1971, p.89 / cat.no.10

Catalogue de l'exposition Le siècle de Titien. L'âge d'or de la peinture à Venise, Grand Palais, Paris, 1993, p.30, pp.299-302 / cat.no.17

『エルミタージュ美術館展 イタリア ルネサンス・バロック絵画』図録、東武美術館、三重県立美術館、茨城県近代美術館、1993-94、pp.46-47 / cat.no.8

 決して大きいとはいえない画面は、深さと豊饒を宿した小宇宙の相を呈している。あざやかな色が使われているわけではない。むしろ、彩度や明度をおさえられた色は、鈍く沈んで、くぐもっているとの感触を与える。しかしだからこそ、風景と人物は分離してしまうことなく、全体として連続し、微熱を帯びているかのような振動にひたされるのだ。
 聖母子の肌と地面の褐色、衣と草木の緑が呼応し、輪郭もくっきりした線を刻まず、暗部として溶けこむ。これを保証するのは、油彩特有の透明感だ。ただしこの透明感は、色の鈍さゆえ、粘りと密度を獲得している。
 他方、地面の起伏や植物の描写がしめすように、細部の鋭利な変化にもことかかない。密度を有した空間と細部の豊かさの共存が、画面全体に生動感をもたらすのだ。その中で聖母子は、自身自然の地形の一つと化したかのようだ。

(石崎勝基)
没原稿、1993/11/2

『エルミタージュ美術館展 イタリア ルネサンス・バロック絵画』(1993/11/2~12/5)より
こちらを参照 [ < 三重県立美術館のサイト
当展に関し;

エルミタージュ美術館展 イタリア ルネサンス・バロック絵画」への手引き - ミニ用語解説風に - 」、『友の会だより』、no34, 1993.11.25

  
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