クリヴェッリ《聖母子》1480頃

カルロ・クリヴェッリ (1430/35頃-1495以前)
《聖母子》
1480年頃
テンペラ・板
48.5x33.6cm
ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館、ロンドン


Carlo Crivelli
Virgin and Child
c.1480
Tempera on panel  48.5×33.6cm
The Victoria and Albert Museum, London

Cf., Pietro Zampetti, Carlo Crivelli, Nardini Editore, Firenze, 1986/1988, pp.152-153 / Tav.56, p.276

『英国国立ヴィクトリア&アルバート美術館展』図録、伊勢丹美術館、大丸ミュージアム・梅田、ひろしま美術館、福岡市美術館、そごう美術館、三重県立美術館、1990-91、pp.36-37 / cat.no.2

吉澤京子、『カルロ・クリヴェッリ画集 ピナコテーカ・トレヴィル・シリーズ 3』、トレヴィル、1995、p.40 / 図34

 画面の下辺を占める欄干の左手に、ひびが見える。右側には虫がとまっている。実在感を帯びた緻密な描写は、さらに、上部の果実などにも認められる。
 こうした描出が、しかし、単なる写実にとどまらぬことは、聖母子の顔貌、聖母の手、衣裳の文様などを見ればあきらかだろう。こわばったといってよいほど、即物的に凝固している。
 礼拝のための聖画像という機能に応じた、見るものと対峙する聖母子の正面性ゆえ、強度をもって在る物質は、もはや日常的なものではなくなるだろう。
 この作品は、霊的な次元の表徴にも、現実の再現にもおさまらない。乱暴だが前者を中世的、後者を近世的と呼ぶならば、まさに両者の転換期に位置しているのだ。

(石崎勝基・県立美術館学芸員)
『讀賣新聞』(東海版)、1991.4.9、「ヨーロッパの美 ヴィクトリア&アルバート美術館展 作品紹介 1」

『英国国立ヴィクトリア&アルバート美術館展』(1991/4/6~5/6)より
こちらを参照 [ < 三重県立美術館サイト

こちらも参照:クリヴェッリ《受胎告知》(1486)の頁

当展に関し;

ヴィクトリア&アルバート美術館展」、『友の会だより』、no26, 1991.3.1

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