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季節のはざまで
Hors saison
    1992年、スイス・フランス・ドイツ 
 監督   ダニエル・シュミット 
撮影   レナート・ベルタ 
 編集   ダニエラ・ロデレール 
 美術   ラウル・ヒメネス 
    約1時間35分 
画面比:横×縦    1.66:1 
    カラー 

地上波放送で放映
………………………

 下掲のパンフレットに掲載された海野弘「ホテルの魔術的空間」には次のように記されていました;「この映画でなにより魅力的なのは、長い廊下、階段、ロビーや酒場、屋根裏部屋といった古いホテルの空間である。…(中略)…はじめの方の、廊下や階段、古いエレベーターといった場所を歩きまわるあたりは、あまりにテンポがのろいように感じられた。/しかし実は、この映画は、長い廊下をさまようゆるやかな時について語ろうとしたのではないか、と途中で思うようになった」(p.22)。
 加えて同パンフレット所収の対談に、
「蓮實 ところで、撮影はどのシーンから始められたのですか。
DS(ダニエル・シュミット) サミ・フレイがホテルの中を徘徊するシーンからです。
蓮實 そうだと確信していました(笑)。」
とあります(p.6)。また
「蓮實 これで一本の映画が撮れると思われたときにあなたの頭にあったイメージは、どんなものでしたか。
DS さあ、迷路を進んで行くイメージだったでしょうか。ボルヘスが書いたバベルの図書館のように、取り壊し寸前の廃墟のような迷路を、男がどこまでも立ち止まらずに進んで行くイメージが最初にあったのです」(p.5)。
 以上3つの引用をもって他に思いつくこととてあるべくもないのですが、蛇足がてら例によってずるずるメモしておくことにしましょう。『今宵かぎりは…』(1972)、『ラ・パロマ』(1974)、『デ ジャ ヴュ』(1987)と折に触れては城館を登場させてきたダニエル・シュミット、これまではいささか廊下成分が不足気味の感があったのですが、本作では存分にうろうろしてくれます。見ようによっては「心温まる」という形容が当てはまりそうな本作は、上記3作はもとより、本サイトの他の面子に比べるといささか場違いの感なしとしないものの、現実と幻ないし虚構、現在と過去が相互貫入するという点は上の3作と通じています。電波状態が悪い時、VHSに3倍録画したという態なので、きちんと見るのはまたあらためてとなってしまいますが、ご容赦ください。

 やはり上掲対談から;「『今宵かぎりは』は、スイスのグリゾン地方フリムスで祖母が経営していたホテルの閉館期間に撮りました。…(中略)…弟が経営している祖母のホテルはかろうじて独立をまもっていますが、撮影はかなり長期間にわたるので、ここで撮ることは初めから無理でした。それに、取り壊し寸前のホテルという設定なので、営業中のホテルは使えず,理想的なホテルを探すのはかなり厄介な作業だったのです。やっとのことで探しあてたホテルはポルトガルにありました。…(中略)…ええ、室内の主な場面は祖母が経営したフリムスのホテル・シュヴァイツァーホッフをモデルとして、キュリアのパラス・ホテルの内部を改装して撮影しました。しかし。その外景はブルネンのグランド・ホテルでロケしたものです。それ以外にも、さらにいくつかのホテルを使わねばなりませんでした。たとえば、神話的な大女優サラ・ベルナールが登場する場面はプサコのパラス・ホテル、無政府主義の女が間違った男を殺してしまう場面は、キュリアのホテル・ダ・テルマで撮りました。その他、伯父が入院している精神病院などもホテルで撮り、ステージでのセット撮影はしていません」(p.5)。
 キュリア(クリア Curia)はポルトガルのアヴェイロ県アナディア市にある村。ポルトガル語は不勉強につき読めませんが、パレス・ホテルがあります→ポルトガル語版ウィキペディア該当頁。プサコはブサコ、国立公園のあるところのことでしょうか(Mata Nacional do Buçaco / Bussaco)? こちらにもパレス・ホテルがある;Buçaco Palace →英語版ウィキペディア該当頁。ブルネンはスイスのシュヴィーツ州、ルツェルン湖(Vierwaldstättersee)に面したブルネン(ブルンネン Brunnen)のことのようです。こちらも参照→ウェブ・ページ"Grand Hotel, Brunnen (SZ)"[ < htr.ch ])ネット検索ではグラン・パレ Grand Palais 名でも見つかります。現在は営業されていないようです。

  黒地に白抜きでのオープニング・クレジット、軽快な音楽付きです。
 次いでバスの中が映ります。山中を走っている。電話の相手がアニー・ガブリエル、祖母のアルピナ=パラス・ホテルにつとめていた女性に会いに行くよう勧めたのでした。
 アニーがいたのは養老院のようです。ナレイションの主はヴァランタン(サミ・フレイ)。アニーは洗面所で鏡に映る像とおしゃべりします。彼女は売店係でした。『ミッキー・マウス』という雑誌を子供の頃のヴァランタンにあげていたのですが、その雑誌がひとそろいホテルに残っている、取り壊される前に取りにいってほしい、「海に見える部屋」にあるという。


 約8分、街路がかなり高くから見下ろされます。バスが発車し、ヴァランタンがおりていました。カメラが左下から右上へ振られると、ゆるく折れながら壁が奥へ伸びていきます。6階分はあるでしょうか、多くの窓が並んでいる。1階のみ少し迫りだしているようです。その下は高床でしょうか、それを支える柱が並んでいるようにも見えますが、定かではない。近づくヴァランタンにあわせてカメラが少し動くと、右手前で壁が左に折れていました。画面上をその部分の天井が枠どりします。
 なおホテルの外観が出てくるのはここだけで、後は全て屋内で展開します。この点は『今宵かぎりは…』と同じでした。

 石垣と棟の間の狭い道を、奥から手前へ進んできます。左に通用口がある。隠してあった鍵で中に入ります。
 ガラス戸越しの向こうから入り、扉を開けて手前へ、カメラは後退します。
 奥が窓の廊下を右へ、右にまたガラス戸がありました。
 入って右から左へ、数段おりて扉を開け、また右から左へ進む。数段おります。円形のサロンのようです。奥の鏡に像が映ります。左にピアノがある。数段あがって円形を囲む縁の部分を右へ、奥にバーのカウンターらしきものがあります。その右の扉に入る。
 湾曲階段が俯瞰されます。カメラはヴァランタンとともに右下から左上へ、中央にはエレヴェイターらしき格子がある。
 約11分、階段を右上まであがってくると、上から声が聞こえます。左上から右下へ階段を数人の人がおりてくる。カメラもそれを追います。彼らが階段をおりると奥への廊下が伸びていました。薄暗く、突きあたりのみ明るい。数人の人物がホテル内を移動するさまは、この後何度か繰り返されることでしょう。

 ヴァランタンは左の扉から中に入ります。右手には天井まで届かず、上辺が曲線をなすガラスの仕切り戸がありました。奥には扉口を経て、向こうに窓があり、その手前に鉄製螺旋階段が見えます。
 螺旋階段がほぼ真上から見下ろされる。ヴァランタンがのぼってきます。
 あがって手前へ、すぐまた上りの階段になる。ここをあがって手前を左へ進みます。最上階の屋根裏部屋だという。けっこう広く、太い梁が低く走っています。

 約14分、屋根裏にあった櫃をあさっていて思い浮かんだ魔術師マリーニ(ウリ・ロンメル、自身映画監督で、またシュミットの『天使の影』(1975)に出演していたとのこと)のことが回想されます。子供時代のヴァランタン(カルロス・デベーサ、当時8歳とのこと)も登場する。
 現在の場面の寒色調に対し、過去は暖色調です。この点も『今宵かぎりは…』に通じている。

 すぐ現在に戻ります。手前にさらにのぼり階段がある。俯瞰です。
 あがると奥へ廊下が伸びています。薄暗く、左右に扉口がいくつも開いている。ヴァランタンが手前に進んでくるとカメラは後退します。床が光と影の縞をなしている。
 手前で右に曲がります。さらに廊下は続く。背を向け奥へ進みます。カメラは動きません。
 右の扉を開けて入り、左に進む。何もない白壁が縦に分割されている。先に鉄の曲線仕切りがありました。そこにつけられた何かの装置の赤ランプが点滅しています。エレヴェイターでしょうか。


 約17分、過去です。エレヴェイターから女性がおります。マダム・アニタ(アリエル・ドンバール)とのことです。エレヴェイターの周りを湾曲階段がのぼっています。おりた先はロビーのようです。
 マックス(ディーター・マイアー)がピアノを弾き、リロ(イングリット・カーフェン、『今宵かぎりは…』と『ラ・パロマ』、『天使の影』、『ヴィオランタ』(1977)でお馴染みです)が歌います。バーのあるサロンです。


 約19分、大人版ヴァランタンがエレヴェイターで下降します。周りの階段を老人たちと子供があがってくる。エレヴェイターの中はやけに広く見えますが、大きな鏡に映った像でした。実物が手前左から現われます。
 エレヴェイターをおりると、約21分、過去です。目が見えないという祖父(モーリス・ガレル)、そして祖母(マリア・マッダレーナ・フェリーニ、映画監督のフェデリコ・フェリーニの妹とのことです)が登場する。客との会話の中に「海の見える部屋」が出てきます。南米のアマン一家、スミス夫妻なども紹介されます。ロビーには中2階廊下があります。
 大人版ヴァランタンが中2階にいる。右端で下への湾曲階段となります。
 約24分、過去です。バー兼サロンです。ピアノの向こうで湾曲階段があがっています。
 マリーニ教授の「魔術の夜」です。子供版ヴァランタンが中2階の欄干越しに見下ろしています。ロビーなのでしょうか。後には教授の助手となる。


 約31分、現在です。左から右奥へ進み、両開きの扉から入ります。右手前に半円のカウンターがある。
 ラジオの音ともに過去に切り替わります。祖父と子供版ヴァランタンが話します。
 約34分、フルキガー嬢とフーグ夫人は災害の専門家とのことです。アニー・ガブリエルの売店が登場します。
 現在のロビーをはさんで、また過去に、子供版ヴァランタンにアニーが『ミッキー・マウス』誌を渡します。
 約36分、美容室です。マダム・アニタがいます。
 約37分、奥へ廊下が伸びています。子供版ヴァランタンたちが季節に合わせて部屋を引っ越しします。左の部屋に入る。
 ピアノとリロの歌です。バー兼サロンです。
 約41分、現在の場面をはさんで、過去の売店です。アニーが子供版ヴァランタンに大きな貝殻を渡す。

 約43分、祖母の「お話」その1です。ペテルブルグから来た無政府主義者の女貴族(ジェラルディン・チャップリン、シュミットの『ベレジーナ』(1999)に出演することでしょう)が狙いとは違う男を拳銃で射つ。
 約44分、リロとマックス、祖母のやりとりです。サロンです。
 約45分、廊下を一同が奥から手前へ進む。手前を右に入ります。
 約46分、祖母の「お話」その2です。サラ・ベルナール(マリサ・パレデス)が右下がりの大階段をおりてきます。おりて左へ進む。薄暗いここは、ロンドンのサヴォイとのことです。祖父がボーイとして働いていました。


 約52分、現在です。大人版ヴァランタンが鏡に向かっています。左から右へ進む。磨りガラスの扉を開けて中へ入ると俯瞰になります。中2階がある。
 約53分、いったん真っ暗になり、過去のレストランです。マリーニ教授と祖母がやりとりする。
 約54分、現在です。中2階から見下ろすさまが下から見上げられます。
 俯瞰に切り替わると、階段を一団がのぼってきます。あがると子供版ヴァランタンの背がやや下からとらえられる。ヴァランタンの父が亡くなったとのことです。
 廊下を奥から手前へ一団が移動します。天国は私たちのホテルと同じだが、ずっと広いと祖母が言います。手前で折れて左へ、背を向けて奥へ進みます。
 約56分、左の扉から祖母と子供版ヴァランタンが出てきます。奥に右上がりの階段がある。右へ進みます。白のローブを着て羽の生えた天使状の女の子、祖父や客たちがいます。さらに右へ、売店まで来る。
 中2階が下から見上げられます。奥に大窓のある湾曲階段、その脇をエレヴェイターがおりてきます。
 リロが歌う。やや下からのカメラが下向きになります。


 ランプを下から見上げていたカメラが下向きになります。現在の大人版ヴァランタンが中2階にいる。
 過去です。「イェ・カ・ミ」祭りです。カメラは中2階から下のカウンターに向かいます。
 美容室です。マダム・アニタは海賊、アマン夫人はシュガー・ベイビーに扮するという。アマン夫人が夫と喧嘩します。
 約1時間2分、リロが歌います。スポット・ライト付きです。サロンは飾り付けされている。
 約1時間6分、「ポール・ジョーンズ」という踊りです。リロがまた歌います。中2階から子供版ヴァランタンが見下ろしている。
 約1時間8分、記念写真です。
 約1時間9分、タンゴの歌です。


 約1時間10分、薄暗い廊下です。奥から女性が出てきて手前左へ曲がる。左下がりの階段があります。パジャマの子供版ヴァランタンが後をつけます。女性は階段をあがり、右で廊下を奥へ、中ほど右の扉から入ります。追って口髭の男が同じ経路を辿る。子供版ヴァランタンは鍵穴から覗きます。
 子供版ヴァランタンは右下から屋根裏部屋へ、左へ進みます。扉が大鏡になった箪笥が支えなしに置いてある。


 約1時間14分、マリーニ教授が「サハラの夜」を催します。催眠術です。
 約1時間17分、ポール叔父さん(ヴィットリオ・メッツォジョルノ、『デ ジャ ヴュ』に出ていました)が入院する精神科病院を訪れます。格子戸から左へ、奥にのぼり階段が見える。左の扉口を通り、斑いり大理石の円柱が並ぶ広間に入ります。

 約1時間19分、廊下が奥へ伸びています。子供版ヴァランタンが奥から手前へ走ります。手前を左へ、左上がりの湾曲階段がある。
 祖母の小間使いだったメーナの部屋です。彼女はカトリックでした。
 約1時間22分、教会です。ホテルのそばにあったという。メーナと子供版ヴァランタンがいます。祖母が参上する。解雇されたメーナは酔って呪います。


 約1時間24分、サロンです。リロが歌います。パジャマの子供版ヴァランタンとサロンを出て右へ、奥にのぼり階段があります。その下で坐り話します。リロは子守歌を歌う。

 約1時間27分、現在です。湾曲階段を大人版ヴァランタンがのぼります。下からのカメラが左から右へ振られる。
 いったんあがってまたのぼります。エレヴェイター口に出る。右手前へ、カメラも右に流れます。右手の湾曲階段を一同がのぼります。振り返った子供版ヴァランタンが大人版ヴァランタンに貝殻を渡す。『デ ジャ ヴュ』にもあった過去と現在の干渉です。
 大人版ヴァランタンが追います。上階で右へ、上が曲線になった磨りガラスの両開き扉を開け向こうへ、奥に廊下が伸びています。奥から手前へ、左寄りのカメラが後退します。手前右の扉から中に入る。
 中でカメラは左から右下へ、『ミッキー・マウス』誌がありました。カメラは右上から下へ、また上へ、窓があります。風で開きます。向こうは海でした。右手前から背を向けた大人版ヴァランタンが現われます。歌が流れフェイド・アウト、クロージング・クレジットとなる。

Cf.,  『季節のはざまで』パンフレット(CINE VIVANT no.51)、キネマ旬報社・シネセゾン、1993
対談:ダニエル・シュミット×蓮實重彦「過去に永遠の別れを告げるための映画」/解説、物語/スタッフ、キャスト/シュミット劇場/評論 ホテルの魔術的空間(海野弘)/ぼくの”季節のはざま”の記憶(竹中直人)/誰かの接吻(キス)で目醒めるホテル(大橋美加)/登場人物相関図/鍵穴からのぞく子供たち(サエキけんぞう)/僕とヴァランタンのミッキーマウス(生出朋弘)/甘美で切ない少年時代の思い出(安西水丸)/シナリオ採録など、38ページ。


ダニエル・シュミットについて→こちらも参照
 2016/8/11 以後、随時修正・追補
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